最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)203号 判決 1950年6月16日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士根本松男の上告理由第一点について。
按ずるに借家法第一条ノ二に規定する建物賃貸借解約申入の「正当の事由」は賃貸借の当事者双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し社会通念に照し妥当と認むべき理由をいうのであつてもとより賃借人側の利害のみを考慮して判定すべきものではないことは言うまでもないところである。論旨は本件において原審は被上告人側の利害のみを考え上告人側の利害を考えていないから正当事由の解釈を誤つていると主張するのである。しかし原審は当事者双方の利害関係を考慮し社会通念に照し本件解約申入について正当の事由がないと判断したものであることは原判文上明らかであるから論旨はその理由がない。
同第二点について。
しかし原判決が確定した当事者双方の事情を比較考量して本件解約申入について正当事由がないと判断したことが必ずしも所論のように片手落で公平を欠いておるものとも言えないのであるから論旨は採用できない。
同第三点について。
賃貸借解約申入の「正当の事由」を判断するに当事者の職業、風俗習慣、教養の差異も一の事情として斟酌され得るものである。原判決は本件当事者の職業、風俗習慣、教養に差異あることを認めこれらの事情をも考量しているのであるがその差異のあることは原審の採用した証拠から認められないことはないのであるから原判決には所論のような違法があるとはいえない。論旨は理由がない。
よつて民訴第四〇一条、第九五条、第八九条により主文のとおり判決する。
右は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)